「この服は動きしずらいな」「あの人には言いにくいことだ」など、日常会話や文章で「~するのが難しい」「~すると不便だ」といった意味で「~しづらい」という表現を何気なく使っていますよね。しかし、いざ書こうとした時に「『しづらい』でいいのかな?それとも『しずらい』?」と迷った経験はありませんか? パソコンやスマートフォンの予測変換で両方出てくることもあり、どちらが正しいのか、なぜ迷うのか、気になっている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そんな「しづらい」と「しずらい」のどちらが正しいのか、その文法的な根拠を徹底的に解説します。さらに、似たような意味を持つ「~しにくい」とのニュアンスの違いや、それぞれの言葉の正しい使い方、具体的な例文まで、詳しくご紹介。言葉の曖昧さを解消し、自信を持って使いこなすためのヒントが満載です。
「~しづらい」の基本的な意味と文法的な成り立ち
「~しづらい」という表現は、動詞の後に接続して、ある動作を行うことの難しさや不便さを表します。まずは、この言葉が持つ意味と、日本語の文法における位置づけを確認しましょう。
「~しづらい」が持つ意味:困難・不便・抵抗感
「~しづらい」は、「~するのが難しい」「~すると都合が悪い」「~することに抵抗がある」といった、動作を行う上での困難さや不便さ、あるいは心理的な抵抗感を表す言葉です。
「~しづらい」の主な意味
- 動作の困難さ: 物理的にその動作を行うのが難しい、やりにくい。
- 都合の悪さ: その動作をすると、状況的に不都合が生じる。
- 心理的な抵抗感: その動作をすることに、気が進まない、ためらいがある。
- 不快感: その動作を行うと、不快に感じる。
例えば「言いにくい」という場合、物理的に話しにくいだけでなく、「相手に伝えるのが難しい」「伝えることで角が立つ」「気が引ける」といった心理的な側面も含まれます。
文法的な成り立ち:サ行変格活用の動詞+接尾語「づらい」
「~しづらい」は、動詞「する」の連用形「し」に、接尾語「づらい」が接続してできた形です。
接尾語「づらい」の働き
- 「~づらい」は、動詞の連用形に接続して、その動作を行うことの困難さや不便さ、不快感を表す接尾語です。
- 現代語では、主にサ行変格活用(サ変)動詞の「する」の連用形「し」に接続して「~しづらい」の形で用いられることが多いです。
- 「話しづらい」「見づらい」「聞きづらい」のように、他の動詞の連用形に接続する場合もあります。
この「づらい」という接尾語が、次に解説する「づ」と「ず」の使い分けのルールと深く関わってきます。
「しづらい」が正しい理由と「しずらい」が広まった背景
多くの人が迷う「しづらい」と「しずらい」の表記ですが、正しくは「しづらい」です。その文法的な根拠と、なぜ「しずらい」という表記が広まったのかを解説します。
「しづらい」が正しい文法的根拠:「づ」と「ず」の使い分け
現代仮名遣いでは、「づ」と「ず」の使い分けについて明確なルールが定められています。このルールに基づくと、「しづらい」が正しい表記となります。
「づ」と「ず」の使い分けのルール
- 「づ」を使う場合:
- 二語の連結によって生じた「つ」が濁った場合(例: 「みかづき」←「みか」+「つき」)。
- 動詞の連用形に、接尾語として「つ」が濁った音が付く場合。
- 例: 「立ちづらい」(立つ+づらい)
- 「続きづらい」(続く+づらい)
- 「しづらい」 も、サ行変格活用の動詞「する」の連用形「し」に接尾語「づらい」が接続するため、このルールに当てはまります。
- 「ず」を使う場合:
- 語句の途中で、特に規則性なく「ず」の音が現れる場合(例: 「きず」)。
- 打ち消しの助動詞「ず」として使う場合(例: 「~せずにはいられない」)。
「しづらい」は、「する」の連用形「し」に接尾語「づらい」が接続している形であり、「つ」が濁って「づ」になるという明確な文法ルールに則っているため、「しづらい」が正しい表記なのです。
なぜ「しずらい」が広まったのか?:音と誤認、予測変換の影響
「しづらい」が正しいにもかかわらず、「しずらい」という表記が広く見られるのには、いくつかの理由が考えられます。
「しずらい」が広まった背景
- 発音のしやすさ: 多くの日本人にとって、「しずらい」と発音する方が「しづらい」と発音するよりも自然で、スムーズに聞こえることがあります。実際に発音する際に「ず」の音になるため、そのまま表記も「ず」と誤認してしまう。
- パソコン・スマートフォンの予測変換: 以前のIME(日本語入力システム)では、「しずらい」と入力しても「しづらい」に変換されない場合や、「しずらい」が一般的な表記として予測変換に表示されることがありました。これにより、誤った表記が広まる一因となりました。
- 「~ず」の慣用との混同: 「~せずにはいられない」「構わず」「知らず」など、打ち消しや状態を表す「~ず」という言葉は日常的に使われます。この「ず」のイメージと混同し、同じ「ず」を使うのが自然だと誤解してしまう。
- 現代仮名遣いの曖昧さへの混乱: 現代仮名遣いには、「づ」と「ず」、「ぢ」と「じ」の使い分けで迷うケースが多く、その混乱が「しづらい」の誤用に繋がることもあります。
これらの要因が複合的に絡み合い、「しずらい」という誤った表記が、あたかも正しいかのように広まってしまったと考えられます。
「~しづらい」と「~しにくい」の違いと使い分け
「~しづらい」と非常によく似た意味で使われるのが「~しにくい」です。どちらも動作の困難さを表しますが、そのニュアンスには明確な違いがあります。
「~しづらい」のニュアンス:心理的・感覚的な困難
「~しづらい」は、主観的な困難さや、心理的な抵抗感、あるいは五感を通して感じる不便さを表す際に用いられます。
「~しづらい」が表す困難の種類
- 心理的・感情的: 気が進まない、気が引ける、気が咎める、言いにくい、頼みづらい。
- 感覚的・不快感: 見えにくい、聞きづらい(音が不鮮明で聞き取りにくい)、座りづらい(座り心地が悪い)。
- 主観的: その人個人の感情や感覚に基づく困難さ。
「~しづらい」の例文
- その話題には、彼に言いづらい。(心理的な抵抗)
- この席からは、舞台が見づらい。(視覚的な不便)
- 彼の滑舌が悪くて、話が聞きづらい。(聴覚的な不便)
- この椅子は形が合わなくて、どうも座りづらい。(感覚的な不快感)
- 上司には頼みづらいことだ。(心理的な抵抗)
「~しにくい」のニュアンス:物理的・客観的な困難
「~しにくい」は、客観的な困難さや、物理的な制約、機能的な問題を表す際に用いられます。
「~しにくい」が表す困難の種類
- 物理的: 道具が不便、構造上の問題、スペースの制約などによる困難。
- 客観的: 誰がやっても同じように困難であると感じられるような困難さ。
- 機能的: そのものの機能として、動作が行いにくい。
「~しにくい」の例文
- このペンはインクが出なくて、書きにくい。(物理的な問題、機能的な問題)
- 道が狭くて、車が通りにくい。(物理的な制約)
- このネジは小さすぎて、掴みにくい。(物理的な困難)
- 説明書が難解で、とても理解しにくい。(客観的な困難)
- この靴は滑りやすくて、雪道では歩きにくい。(機能的な問題)
使い分けのポイントまとめ:表で比較
表現 | 焦点 | 困難の種類 | 例 |
---|---|---|---|
~しづらい | 心理的・感覚的 | 気が進まない、不快感 | 言いづらい、見づらい、聞きづらい、座りづらい |
~しにくい | 物理的・客観的 | やりにくい、機能的な問題 | 書きにくい、通りにくい、掴みにくい、理解しにくい、歩きにくい |
迷った場合は、「心のハードルがあるなら『~しづらい』、モノの機能や環境が原因なら『~しにくい』」と考えると、使い分けの判断がしやすくなります。
「~しづらい」の正しい使い方と例文
正しく「しづらい」という表現を使うことで、より正確に自分の意図を相手に伝えることができます。様々な場面での正しい使い方を見ていきましょう。
例文:心理的・感覚的な困難を表す
「~しづらい」が持つ、心理的・感覚的なニュアンスがよく表れる例文です。
心理的・感覚的困難の例文
- 初対面の人にいきなり個人的な話をしづらい。
- この企画は、上層部に提議しづらい点がいくつかある。
- 社長の前では、どうしても本音が話しづらい。
- このフォントは小さすぎて、本文が非常に読みづらい。
- 写真が不鮮明で、表情が見づらい。
- 音が響きすぎて、相手の声が聞きづらい。
- この状況では、笑顔でいづらい。
- 狭い席なので、足を伸ばして座りづらい。
これらの例文では、「~しづらい」が、発言や行動に対する主観的な抵抗感や、五感で感じる不便さを表現しています。
「~しづらい」の慣用的な表現
「~しづらい」は、特定の動詞と組み合わせて慣用的に使われることが多いです。
慣用的な表現の例
- 言いづらい: 相手に伝えにくい、言いにくい。
- 聞きづらい: 音が聞き取りにくい、あるいは相手に質問しにくい。
- 見づらい: 視覚的に見にくい、読みにくい。
- 話しづらい: 話すのが難しい、あるいは話す雰囲気ではない。
- 頼みづらい: 相手に頼むのが気が引ける。
これらの表現は、日常会話でも頻繁に登場します。
「~しづらい」を正しく使うためのポイント
正しい使用のポイント
- 「づ」を使う: 必ず「しづらい」と「づ」で表記しましょう。
- 文脈の確認: 物理的な困難か、心理的な困難か、文脈をよく確認して「~しにくい」と使い分けましょう。
- 口語と文語: 日常会話では「~しづらい」を「~しにくい」と表現する方が自然に聞こえる場合もあります。しかし、より正確なニュアンスを伝えたい時や、ビジネス文書などでは、「~しづらい」も有効な表現です。
「しずらい しづらい」に関するQ&A|よくある疑問
「しずらい」と「しづらい」の表記や使い方について、さらによくある疑問点にお答えします。
Q1: 「しずらい」と書いても間違いではないと聞いたのですが?
一部では「発音する際に『しずらい』となるため、誤用ではない」という意見や、「どちらでも通じるから良い」という考え方もあります。しかし、現代仮名遣いのルールに基づくと、「しづらい」が唯一の正しい表記です。公的な文書やビジネス文書、あるいは正確な日本語が求められる場面では、「しづらい」を使用するべきです。日常会話で「しずらい」と発音しても問題ありませんが、表記としては「しづらい」を心がけましょう。
Q2: 「~づらい」の「づ」と「ず」の使い分けの基本ルールは何ですか?
「づ」と「ず」の使い分けの基本ルールは、以下の通りです。
「づ」と「ず」の使い分けルール
- 「づ」を使う場合:
- 二語の連結: 二つの言葉が結合して、前の語の最後の音が「つ」で終わり、それに続く音が濁って「づ」となる場合(例: 「みかづき」(三日月)←「みか」+「つき」、「かたづける」(片付ける)←「かた」+「つける」)。
- 動詞の連用形に接尾語が接続: 動詞の連用形に接尾語として「つ」が濁った音が付く場合(例: 「つまずく」(躓く)←「つま」+「つく」、「しづらい」(する+づらい))。
- 「ず」を使う場合:
- 上記「づ」のルールに当てはまらない、一般的な「ず」の音の場合(例: 「きず」(傷)、「ゆず」(柚子))。
- 打ち消しの助動詞「ず」として使う場合(例: 「見ず知らず」、「~せずにはいられない」)。
このルールを理解しておくと、「しづらい」だけでなく、他の言葉の使い分けにも役立ちます。
Q3: 「やりづらい」と「やりにくい」はどちらを使えばいいですか?
「やりづらい」と「やりにくい」も、前述の「~しづらい」と「~しにくい」の使い分けのルールに準じます。
「やりづらい」と「やりにくい」の使い分け
- やりづらい:
- 心理的・感覚的な困難: 相手の顔色をうかがって「やりづらい」と感じたり、雰囲気が悪くて「やりづらい」と感じたりするような場合です。
- 例: 「彼の前ではやりづらい。」(心理的な抵抗)
- やりにくい:
- 物理的・客観的な困難: 道具が不便で「やりにくい」、スペースが狭くて「やりにくい」など、客観的な状況や機能が原因の困難さです。
- 例: 「この道具ではやりにくい。」(物理的な問題)
文脈によって使い分けましょう。
まとめ
「~しづらい」と「~しずらい」の表記で迷う場合、正しくは「しづらい」です。これは、動詞「する」の連用形「し」に、接尾語「づらい」が接続するという、現代仮名遣いのルールに基づいています。「しずらい」という表記は、発音のしやすさやパソコン・スマートフォンの予測変換、他の「~ず」との混同などから広まった誤用です。
「~しづらい」と「~しにくい」は、どちらも動作の困難さを表しますが、そのニュアンスには違いがあります。
- ~しづらい: 主に心理的・感覚的な困難(例: 言いづらい、見づらい、話しづらい)。
- ~しにくい: 主に物理的・客観的な困難(例: 書きにくい、通りにくい、理解しにくい)。
この違いを理解し、文脈に合わせて正しく使い分けることが、より正確で適切な日本語表現につながります。この記事が、「しづらい」と「しずらい」に関するあなたの疑問を解消し、言葉を自信を持って使いこなすための一助となれば幸いです。