日常会話で「後からついて行くね」「流行について行く」「新しい仕事について行く」など、「ついて行く」という言葉を何気なく使っていますが、漢字で書こうとした時に「『付いて行く』でいいのかな?」「他にも漢字があるような…」と迷った経験はありませんか? 同じ「ついていく」という読み方でも、漢字によって意味が異なり、使い分けが必要になる場合があります。
「『付いて行く』『就いて行く』『随いて行く』、それぞれの意味は何?」「どう使い分ければ正解なの?」そんな疑問をお持ちの方に向けて、この記事では、それぞれの漢字表記が持つ意味の違い、具体的な例文での使い分け、そして「ついていく」という言葉を正しく使うためのポイントを詳しく解説していきます。漢字の選び方一つで、伝わるニュアンスが変わる「ついていく」という言葉について、深く理解を深めましょう。
「ついて行く」の様々な漢字表記と基本的な意味
「ついて行く」という言葉は、大きく分けて「付いて行く」「就いて行く」「随いて行く」という漢字表記が考えられます。それぞれの基本的な意味を確認しましょう。
① 付いて行く(ついていく):一緒に行く、一緒に行動する
最も一般的に使われるのが、「付いて行く」です。この場合の「付く」は、「寄り添う」「一緒になる」「伴う」といった意味合いを持ちます。
「付いて行く」の主な意味
- 人や物の後を追って一緒に行くこと: 物理的に、誰かや何かの後を追って移動する場合に使われます。
- ある集団や組織に加入したり、そこにとどまったりすること: 比喩的に、特定のグループや状況に加わる、そこから離れない、といった意味で使われることもあります。
- 流行や考え方など、抽象的なものに遅れないようにすること: 時代の流れや他者の考え方に遅れずについていく、理解・対応していく、といった意味でも使われます。
物理的な移動から、抽象的な概念への追随まで、幅広い意味で使われる汎用性の高い表記です。
② 就いて行く(ついていく):特定の地位や仕事に就く
「就いて行く」は、「就職」「就任」といった言葉に使われる「就く」という漢字が使われています。この場合の「就く」は、「特定の地位や役職、仕事につく」「ある場所や立場に身を置く」といった意味合いを持ちます。
「就いて行く」の主な意味
- 特定の仕事や職務に就くこと: 新しい仕事に就く、ある役職に就任するといった文脈で使われます。
- 特定の場所や地位に移り、そこに身を置くこと: 比喩的に、ある状況や立場に進み、そこで活動を開始するといった意味で使われることもあります。
「就いて行く」は、「付いて行く」のような物理的な移動の意味合いはほとんどなく、キャリアや立場、仕事に関連する場面で使われるのが特徴です。
③ 随いて行く(ついていく):従う、つき従う
「随いて行く」は、「随行」「随時」といった言葉に使われる「随」という漢字が使われています。この場合の「随く」は、「従う」「つき従う」「任せる」といった意味合いを持ちます。
「随いて行く」の主な意味
- 目上の人や指導者など、特定の人物に従って行くこと: リーダーや師匠など、誰かの指示や行動に従い、共に行動する場合に使われます。
- ある方針や規則などに従うこと: 組織のルールや、特定の考え方、指示などに従う、といった比喩的な意味でも使われます。
「随いて行く」は、「従う」「つき従う」という、服従や付き添いのニュアンスが強いのが特徴です。
違いがわかる!「ついて行く」漢字表記の使い分け
それぞれの漢字表記が持つ意味を踏まえて、具体的な例文で使い分けを見ていきましょう。文脈によって、適切な漢字表記は異なります。
例①:物理的に人や物の後を追う場合
- 付いて行く:
- 「友達の後を付いて行った。」
- 「子供が親に付いて行く。」
- 「車が前のトラックに付いて行く。」
- 随いて行く:
- 「師匠に随いて、修行の旅に出た。」(師匠に従っていく)
- 「隊長に随いて、敵陣へ向かった。」(隊長に従っていく)
この場合、「付いて行く」は単に後を追って一緒に行く、というニュアンス、「随いて行く」は「従う」というニュアンスが加わります。
例②:流行や変化に遅れないようにする場合
- 付いて行く:
- 「最近の流行に付いて行くのが難しい。」
- 「会議の議論に付いて行くのが精一杯だった。」
- 「技術革新に付いて行くためには、常に勉強が必要だ。」
- 随いて行く:
- 「会社の経営方針に随いて行くしかない。」(方針に従う)
- 「時代の変化に随いて、柔軟に対応する。」(変化に従う)
この場合、「付いて行く」は「遅れないように理解・対応する」というニュアンス、「随いて行く」は「流れや方針に身を任せて従う」というニュアンスが強くなります。
例③:特定の仕事や立場に就く場合
- 就いて行く:
- 「新しい仕事に就いて行くことになった。」
- 「困難な任務に就いて行く決意を固めた。」
この場合は、「就いて行く」以外の「付いて行く」「随いて行く」は使えません。「就く」という漢字が持つ「特定の地位や仕事に身を置く」という意味合いだからです。
使い分けのポイントまとめ
漢字表記 | 主な意味 | ニュアンス | 使われる場面の例 |
---|---|---|---|
付いて行く | 一緒に行く、遅れないようにする | 最も一般的、汎用的 | 人の後ろをついていく、流行についていく、議論についていく |
就いて行く | 特定の仕事や立場に就く | キャリア、地位、職務に関連 | 新しい仕事に就いていく、困難な任務に就いていく |
随いて行く | 従う、つき従う | 服従、付き添い、方針に従う | 師匠について行く、隊長について行く、方針に従う |
迷った場合は、最も広く使われる「付いて行く」を使うのが無難です。ただし、仕事や立場に関する場合は必ず「就いて行く」、従うニュアンスが強い場合は「随いて行く」を選ぶようにしましょう。
「ついていく」を正しく使うためのポイント
漢字表記の使い分けに加え、「ついていく」という言葉をより正確に、適切に使うためのポイントをいくつかご紹介します。
文脈に合わせて最も適切な漢字を選ぶ
前述の使い分けのポイントを踏まえ、文章の文脈に合わせて、最も意味が通じる漢字表記を選びましょう。漢字を間違えると、意図しないニュアンスで伝わってしまう可能性があります。
例
- (物理的に後を追う場合)「彼に随いて(従うニュアンス)行く」と言うと、「彼について行き、彼の指示に従う」といった意味合いになります。単に後から一緒に行く場合は「付いて行く」が適切です。
- (仕事に就く場合)「新しい仕事に付いて(一緒に行くニュアンス)行く」と言うと、意味が通りません。「就いて行く」が正しいです。
送り仮名に注意する:「付いて」「就いて」「随いて」
「ついて行く」の場合、送り仮名は「~て」となります。「付いて」「就いて」「随いて」と、それぞれ対応する漢字の送り仮名を確認しましょう。
より丁寧な表現に言い換える
状況によっては、「ついて行く」という表現が少し直接的に聞こえたり、相手に失礼にあたったりする場合があります。より丁寧な表現に言い換えることも検討しましょう。
丁寧な言い換え表現
- 物理的に後を追う場合: 「後ほど合流します」「後から伺います」「お供させていただきます」(目上の人に対して)
- 流行や変化に遅れないようにする場合: 「理解するように努めます」「対応できるよう頑張ります」「勉強します」
- 特定の仕事や立場に就く場合: 「就任いたします」「担当させていただきます」
- 従う場合: 「お任せいたします」「指示に従います」「同行させていただきます」(目上の人に対して)
会話の相手や、場面のフォーマル度に応じて、適切な言葉遣いを心がけましょう。
「ついて行く」に関するQ&A|よくある疑問
「ついて行く」という言葉について、さらによくある疑問にお答えします。
「ついていく」とひらがなで書くのは間違いですか?
間違いではありません。 特に、どの漢字表記が適切か迷う場合や、文章をひらがなで柔らかい印象にしたい場合、専門的な内容ではない日常的な文脈などでは、ひらがなで「ついていく」と表記することはよくあります。むしろ、漢字表記による意味の誤解を防ぐために、あえてひらがなで書く場合もあります。公的な文書やビジネス文書など、より正確な表現が求められる場面以外では、ひらがなでも問題ないでしょう。
「ついてくる」の場合はどうなりますか?漢字の使い分けは同じ?
「ついてくる」も、「ついて行く」と同様に、「付いてくる」「就いてくる」「随いてくる」という漢字表記が考えられます。そして、基本的な意味の使い分けは「ついて行く」と同じです。
「ついてくる」の漢字使い分け例
- 付いてくる: 子供が私の後を付いてきた。(一緒に来た)
- 就いてくる: 新しい担当者が、私の部署に就いてきた。(部署に配属された、担当になった)
- 随いてくる: 部下が私に随いて、現場へやってきた。(私に従って来た)
ただし、「就いてくる」「随いてくる」は、「ついて行く」に比べると使われる場面は少ないかもしれません。
辞書で調べると、どの漢字が出てきますか?
国語辞典などで「ついていく」を調べると、通常は「付いて行く」が最も最初に掲載され、最も一般的な意味として説明されます。その後に、「就いて行く」「随いて行く」といった、特定の意味を持つ漢字表記が、それぞれの意味と共に紹介されていることが多いです。このように、辞書でも「付いて行く」が最も広く使われる標準的な表記として扱われています。
まとめ
「ついて行く」という言葉には、「付いて行く」「就いて行く」「随いて行く」という主な漢字表記があり、それぞれ意味が異なります。
- 付いて行く: 人や物の後を追って一緒に行く、流行や考え方に遅れないようにする、といった最も一般的で汎用的な意味。
- 就いて行く: 特定の仕事や職務、立場に就くという意味。
- 随いて行く: 目上の人や方針などに従う、つき従うといった意味。
文脈に合わせて最も適切な漢字表記を選ぶことが重要です。特に仕事や立場に関する場合は「就いて行く」、従うニュアンスが強い場合は「随いて行く」を選びます。迷った場合は、最も広く使われる「付いて行く」が無難です。
ひらがなで「ついていく」と表記することも間違いではなく、迷う場合や文章を柔らかい印象にしたい場合に有効です。
この機会に、「ついて行く」という言葉の漢字表記による意味の違いを理解し、状況に応じた適切な表現を使い分けてみてくださいね。