メジャーリーグ(MLB)のニュースを見ていると、必ず出てくる「アメリカン・リーグ(ア・リーグ)」と「ナショナル・リーグ(ナ・リーグ)」という言葉。
「なぜリーグが2つもあるの?」「どういう基準で分かれているの?」そして、「そもそも、その名前の由来は何?」と、不思議に思ったことはありませんか?
実はその背景には、120年以上前のプライドと野望がぶつかり合った、まるでドラマのような歴史がありました。この記事では、それぞれの名前の由来と、両リーグの誕生秘話を分かりやすく解説します。
MLBは「老舗リーグ」と「挑戦者リーグ」が合体してできた
メジャーリーグが2リーグ制である最大の理由は、元々全く別の組織だった二つのプロ野球リーグが、激しいライバル関係を経て提携した歴史があるからです。
それぞれのリーグの立場を簡単に表すと、このようになります。
- ナショナル・リーグ(NL): 1876年に誕生した、威厳と伝統を重んじる「先輩」リーグ。
- アメリカン・リーグ(AL): 1901年にメジャー宣言した、野心あふれる「後輩」リーグ。
この「先輩 vs 後輩」の構図こそが、両リーグの歴史と名前の由来を理解する鍵です。
先に生まれた「ナショナル・リーグ」:国のリーグとしての誇り
1876年、初の安定したプロリーグとして誕生
19世紀後半のアメリカでは、野球の人気が高まり、各地にプロチームが乱立していました。しかし、それらをまとめるリーグは運営が不安定で、八百長や選手の移籍トラブルが絶えませんでした。
そんな混乱した状況を立て直すため、1876年に8つの球団が集まり、厳格な規律とオーナーシップを持つ、初の安定的で強力なプロ野球リーグ「ナショナル・リーグ」が誕生しました。
なぜ「ナショナル」?その名前に込められた意味
「National(ナショナル)」とは、「国民の」「国家の」という意味です。
この名前には、「我々こそがアメリカという”国(Nation)”を代表する、唯一無二の公式な野球リーグである」という、創設者たちの強いプライドと自負が込められていました。ナショナル・リーグは、まさにアメリカ野球界の「盟主」として君臨したのです。
対抗馬「アメリカン・リーグ」の誕生:下剋上の歴史
盟主ナショナル・リーグの支配が続く中、新たな勢力が台頭します。それが「アメリカン・リーグ」です。
元はナ・リーグ傘下のマイナーリーグだった
アメリカン・リーグの前身は、「ウェスタン・リーグ」という中西部のマイナーリーグでした。当初はナショナル・リーグの傘下で、いわば格下の存在でした。
しかし、野心的な会長のバン・ジョンソンは、このマイナーリーグをナショナル・リーグと対等なメジャーリーグに格上げしようと画策します。
なぜ「アメリカン」?挑戦状としてのネーミング
1900年、ウェスタン・リーグは「アメリカン・リーグ」へと改称します。
「American(アメリカン)」とは、「アメリカの」という意味です。
これは、「”国(Nation)”を代表するのはお前たちだけじゃない。我々こそが、”アメリカ(America)”全土のファンに開かれた新しいリーグだ」という、ナショナル・リーグに対する明確な挑戦状でした。
人気選手を引き抜き、メジャーリーグ宣言
アメリカン・リーグは、ナショナル・リーグのスター選手たちを好条件で次々と引き抜き、戦力を強化。そして1901年、ついに自らを「メジャーリーグ」であると宣言し、ナショナル・リーグが独占していた東部の都市にも球団を設立しました。
こうして、観客動員と選手の獲得をめぐる、2つのリーグの熾烈な戦争が始まったのです。
ライバルからパートナーへ:世紀の和解と現在のMLB
2年間にわたる激しい引き抜き合戦の末、両リーグは共倒れを避けるため、1903年に歴史的な和解を果たします。
和解の証「ワールドシリーズ」の始まり
この和解協定により、以下のことが取り決められました。
- お互いを対等な「メジャーリーグ」として承認する。
- 選手の引き抜きルールなどを整備する。
- シーズンの終わりに、両リーグの優勝チーム同士が対戦し、真の王者を決める。
これが、現在まで続く「ワールドシリーズ」の始まりです。ライバル同士が手を取り合い、MLBは世界最高のプロ野球リーグとして発展していくことになりました。
【コラム】かつてあったルールの違い(DH制)と現在の関係
長年、ア・リーグは「DH(指名打者)制あり」、ナ・リーグは「DH制なし」というルールの違いがありましたが、2022年からはナ・リーグでもDH制が導入され、ルールは統一されました。現在では、インターリーグ(交流戦)も日常的に行われ、両リーグはライバルでありながら、MLBという一つの組織を構成する良きパートナーとなっています。
よくある質問
Q. 結局、どっちのリーグが強いのですか?
A. リーグ全体のレベルとしてはほぼ互角です。オールスターゲームでは近年ア・リーグが勝ち越していますが、ワールドシリーズの勝敗は拮抗しています。
Q. 人気があるのはどっちのリーグですか?
A. これもほぼ互角と言えます。ヤンキースなど伝統的な人気球団はア・リーグに多いですが、近年はドジャース(大谷翔平選手所属)などナ・リーグの球団も非常に人気が高いです。
Q. それぞれのリーグにどんなチームがありますか?
A. 代表的なチームは以下の通りです。
- ア・リーグ: ニューヨーク・ヤンキース、ボストン・レッドソックス、ロサンゼルス・エンゼルスなど
- ナ・リーグ: ロサンゼルス・ドジャース、サンフランシスコ・ジャイアンツ、シカゴ・カブスなど
まとめ
メジャーリーグに2つのリーグが存在する理由は、100年以上前の歴史にありました。
- ナショナル・リーグ: 「我こそは国の代表」というプライドを持つ、先に生まれた先輩リーグ。
- アメリカン・リーグ: 「アメリカ全土のための新しいリーグを」という野心を持つ、後から挑戦してきた後輩リーグ。
この二つのライバル関係が、結果的にワールドシリーズを生み、メジャーリーグをより面白く、発展させてきたのです。
この歴史物語を知ると、今後のMLB観戦が少し違った視点で楽しめるかもしれません。



